INJ講師ソテイーヴン先生のカンボジア語ワンポイントレッスン&コラム
Vol.2 米と信仰
■ 今回のクメール語フレーズ
■ 単語
第1回ではカンボジアの宗教の変遷を紹介し、インドのヒンドゥー教の影響を受ける前は、「ネアック・タ」を信仰していたことをお話ししました。ネアック・タはアニミズム、日本語では「精霊信仰」と呼ばれています。現在のカンボジアの宗教は、昔からのアニミズム、ヒンドゥー教、上座部仏教が融合されています。今回は、米とカンボジアの信仰(特にネアック・タ)について紹介します。そして、米と日本の神社の関係とも比較してみましょう。
カンボジアの人々は、主に稲作と畑作で生活しています。そこで、農業をとても大切にし、農業関連の様々な儀式を行っています。特に、1月末の米の収穫後には、田んぼで大きな儀式を行います。一番有名な儀式は「米の山作り(ポン・プノム・スロー)」です。米の山は、須弥山(しゅみせん、サンスクリト語でメール山)を象徴し、5つ作られ小宇宙を表します。
人々は米の山を作るために2種類のお米を運びます。米には2つの意味があり、1つは収穫を祝い、僧侶に捧げる「終わり」を意味します。もう1つは、種として未来に向けて繰り返される農耕の「始まり」を意味します。したがって、儀式における米の山は、終わりの象徴である僧侶、そして、新しい収穫あるいは新しいサイクル(輪廻)を意味します。
米の山作りの儀式。
須弥山(メール山)を象徴して5つ作られ、小宇宙を表す。 (写真:アン・チューレアン)
人々は儀式にお酒を持ち寄り、一部をネアック・タに供えたあと、残りを皆で飲みます。ネアック・タは村の精霊であり、雨の象徴です。このことは、ネアック・タが農業と深く関わっていることを意味しています。お酒も儀式にとって非常に重要です。なぜならば、お酒は農耕に関わる米から作られるからです。
アンコール地域から約40キロのベン・メアレア遺跡にある「村のネアック・タ(ネアック・タ・プーム)」。
人々は病気や悪いことが起こると「村のネアック・タ」で祈る。
日本文化の基礎も「稲作文化」と言われています。日本にも米に関する様々な信仰や儀式があります。たとえば、「ぬき穂祭り」、「稲穂祭り」、「どぶろく祭り」などです。それぞれの祭りでは、豊作を願い、収穫を祝います。田舎の人々は、春になると田んぼの神様に豊作を祈り、秋には稲の収穫を喜び、田んぼの神様に感謝をします。また、一年を通じて、お米に関係する祭りや儀式を行っています。様々な儀式を見てみると、人々は農業に輪廻を意識しているのではないかと考えます。儀式にあたり、収穫のお礼に神様に御神酒を捧げます。
日本の神社でも、特にお正月などには、神様に御神酒を捧げる儀式を行っています。神社の鳥居や神社の前などに御神酒が置かれています。神様に捧げるお酒は米から作られています。人々は、田を耕し、米を作り、お酒を作って神様に捧げます。このことは、自然が循環していることを表しています。そして、また来年の春になると農作業をしますが、これは輪廻に関係があると考えます。
カンボジアの米の山作りの儀式と日本の米に関する祭りの目的は同じではないかと思います。農作業は1年を周期とした繰り返しですので、輪廻思想と同化しやすいですね。ネアック・タ(精霊信仰)と、日本の神道や精霊信仰は非常に近いように思えます。神様に御神酒を捧げるという風習も、日本とカンボジアはよく似ています。このように、アジアの国々において米と信仰は深く結び付いているように思います。